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2024.05.07 14:15

ナポリの暗号通貨ジャーナリストも。イタリアの「非凡すぎる」スタートアップ3社

石井節子

jayk7 / Getty Images

従業員10名に満たない零細企業が95%以上という、「小さな会社の国」イタリア。多くのスタートアップ企業が自己資産で事業をローンチするという厳しい起業環境でも知られる。

だが、この「起業家にやさしくない国」にもキラ星のごとく輝く実にユニークな新星企業があった。13歳からイタリアに暮らし、イタリア事情に詳しい長谷川悠里氏に以下、ご寄稿いただいた。


欧州初、「エクイティ型クラウドファンディング」の法規制制定

イタリアは欧州で初めてエクイティ型クラウドファンディングの法規制を定めた国だ。いまから10年前、2013年のことである。けれども不思議なことに、同国におけるVC投資額は、先進国としては桁外れに低い。隣国フランスの約10分の1、さらに英国と比べれば、その4%にも満たない。

ひとつの要因としては、イタリアが欧州一の“小さな会社の国”であることが挙げられるだろう。従業員10名に満たない零細企業が95%以上。中小企業の割合に至っては、なんと99%を超える。4分の3のスタートアップ企業が、開業資金を自己資産でまかない、VCおよびエンジェル投資家からのエクイティ投資は7%に留まる。この特異な産業構造は、ユニコーン化を狙う起業家にとってかなり酷である。

それでも起業家に“やさしくないイタリア”に留まり、シリコンバレーでもドイツでもなく、愛する祖国で挑戦することを選ぶ起業家たちがいる。

1.indigo.ai おしゃべり好きなイタリアンAIから生まれる物語

「明日が結婚式なのに、靴が届かないの。どうしたらいい? お願い、助けて!」

「なんてことでしょう! ええ、わたしだって結婚式の準備がどれほど大変かわかってますよ。どうやってお役に立てるのか、すぐに考えますからね…」

“話そうよ”。Indigo.aiのトップページを開くと、そんな言葉と共に、AIと顧客との会話が目に飛び込んでくる。訪問者にAIの体温を感じさせる仕掛けだ。

ミラノ工科大学の学生だったジャンルカ・マルツェッラたちは、2016年、「おしゃべりが好きな」AIのプラットフォームを創り上げた。仲良し5人組は、近い将来、世界の企業が顧客エクスペリエンスにAIを活用するだろうと思った。それがいつのことになるかはわからなかった。ChatGPTが人気になるずっと前のことだったのだ。

それから8年の年月が経ち、相変わらず5人でやっていることに変わりはないが、昨年ジャンルカたちは250万ユーロ(約3億7千万円)のラウンドを完了したばかりだ。いまや彼らの顧客には、Telepass、Enel,Lavazzaなど名だたるイタリアの大企業が名を連ねる。

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Indigo.aiは、会話型AIモデルとディープラーニング機能を駆使して、チャットボットを設計できるノーコードのプラットフォームである。その優れた点は、データサイエンティストでなくとも、専門知識のない一般スタッフが構築できることだ。外部委託せず社内で完結できるサービスなら、中小企業にとっては魅力的だろう。

ミラノに本社を置く彼らは、まずはドイツ市場を狙い、さらに世界へ羽ばたくユニコーン企業化を目指している。

“物語は、楽しい会話から生まれる”。この情感溢れる顧客エクスペリエンスを、果たしてアジア市場の企業とその顧客が求めるかどうかが勝負だろう。

 “おしゃべり大好き”だから「結婚式の準備って、ほんと大変よね!」とか、余計なことを言って知らないところで物語が生まれてしまう。

お客様に気の利いた言葉をかけて、ぐっと距離を縮めてくる、人のことが好きなAIだ。日本企業の社長なら、お節介で脱線しがちなおばちゃんに客をゆだねるような、そこはかとない不安を抱くかもしれない。でもおしゃべりをこよなく愛するお世話好きのイタリアン・チャットボット。海外へ船出したあとが楽しみである。
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